国外におけるポーランド文学の素晴らしいアンバサダーに対して、The Polish Book Institute(Instytut Książki)から贈られる最高賞。2021年の受賞者は、日本でポーランド文化を広める関口時正教授です。
「私は日本へのポーランド文化輸入者です――儲けにならない作業ですが。収入にもあまりつながりませんが、それでもなぜこれを続けているかと聞かれれば、ポーランドの文化を日本人に紹介することによって、1974年~76年のクラクフ滞在に始まり、以後私を育て、導いてくれた友人たちへの恩返しをしているとお答えします。」
The Polish Book Institute所長で、トランスアトランティック賞の審査員長でもあるダリウシュ・ヤヴォルスキは次のように強調する――「日本の読者は、受賞者のたゆまぬ努力のおかげでポーランドの魂をより深く知り、ポーランドそのものを理解するための鍵を手にしている。これは、我が国により近い国々であっても当たり前のことではない」。
「翻訳の幅広さ、規模、多様性(コハノフスキからミツキェヴィチ、ゴンブロヴィチ、レムまで)によって、関口教授は翻訳者であるだけでなく、日本におけるポーランド文学のアンバサダーそのものである」審査員のダリウシュ・カルウォヴィチは語った。
関口時正(せきぐち・ときまさ)1951年東京生まれ。1970年代、東京大学にて仏語仏文学と比較文学比較文化を学ぶとともに、ヤギェロン大学でポーランド学を学ぶ。1992年~2013年、東京外国語大学で教鞭をとる。2013年、翻訳に専念するために早期退職。
同年、ポーランド文学古典叢書シリーズを発刊する。日本におけるポーランド文化に関心を抱く人々(研究者、アーティスト、在日ポーランド人社会)をつなぐ組織「フォーラム・ポーランド」の共催者でもある。2008年、ポーランドと中央ヨーロッパに関わる学者のための渡航セミナー「国際移動セミナー」をクラクフ国際文化センターと共に主導。同セミナーはこれまでに隔年で6回、開催された(ウクライナ・リトアニア・ベラルーシ・スロヴァキア~ハンガリー・上下シレジア・チェコ~モラヴィア~スロヴァキア)。
関口教授はポーランドとポーランド人にとっての偉大なる友人であり、桜咲く国におけるポーランド文化のたゆまざる普及者である。その功績は、ポーランド政府によって高く評価されている。2007年ポーランド外務大臣表彰、2009年ポーランド共和国大統領より《ポーランド共和国功労勲章オフィツェルスキ十字勲章》受章、2015年ポーランド共和国文化・国家遺産大臣より《文化功労章グロリア・アルティス》銀メダル受章、2020年ポーランド共和国大統領より《ポーランド共和国功労勲章コマンドルスキ十字勲章》受章。
これまでに教授により翻訳された傑作は、J.コハノフスキの『挽歌』、A.ミツキェヴィチの『バラードとロマンス』『祖霊祭 ヴィリニュス篇』、J.イワシュキェヴィチ『尼僧ヨアンナ』、S.I.ヴィトキェヴィチの戯曲、W.ゴンブロヴィチ『ブルグント公女イヴォナ』、B.プルス『人形』など、50作品以上にのぼる。『人形』の翻訳に対しては、2017年に日本で最も権威ある読売文学賞の翻訳賞が授けられた。
関口教授の翻訳は、2018年《ポーランド舞台藝術作家・作曲家連盟ZAiKS賞》(ポーランド文学の日本語翻訳におけるすぐれた功績に対して)、また2019年には、ポーランド《フリデリク・ショパン協会賞》(フリデリク・ショパンの作品と人物を世に紹介普及した優れた功績に対して)が授けられた。教授は、『ショパン全書簡』2巻を翻訳チームと共に訳しており、『ショパン全書簡』の外国語訳は、現時点では日本語のみ。
トランスアトランティック賞は、今回で17回目を数える。新型コロナウイルス感染症蔓延と、それによる移動の困難の理由から、授賞式は次回の受賞者と共に2022年に執り行う。この際、同時に昨年の受賞者Ewa Thompson氏への授賞式も行う予定。
トランスアトランティック賞は、ポーランド国外における顕著なポーランド文学のアンバサダーに対し、The Polish Book Instituteが贈る賞。受賞対象は翻訳者、出版者、批評家、文化行事企画者など。審査員は文学研究者、文化行事企画者、翻訳者、The Polish Book Institute所長が勤める。
第1回は2005年、ポーランド文学翻訳家会議の際にコハノフスキ、イヴァシュキェヴィチ、アンジェイェフスキ、ヴィスピアンスキ、ノルヴィドやルジェヴィチなどを翻訳したヘンリク・べレスカに授けられた。賞金は10,000ユーロで、賞状とトロフィー(ウカシュ・キフェルリング作)が贈られる。
これまでの受賞者は、以下のとおり。
Anders Bodegård, Albrecht Lempp, Ksenia Starosielska, Biserka Rajčić, Pietro Marchesani, Vlasta Dvořáčková, Yi Lijun, Karol Lesman, Bill Johnston, Laurence Dyèvre, Constantin Geambaşu, Lajos Pálfalvi, Antonia Lloyd-Jones, Hendrik Lindepuu i Ewa Thompson
(発表・写真提供:The Polish Book Institute 翻訳:ポーランド広報文化センター)