2021年9月11日~18日、ポーランドのジェシュフで第2回モニューシュコ国際ポーランド音楽コンクール(Międzynarodowy Konkurs Muzyki Polskiej im. Stanisława Moniuszki / Moniuszko International Competition of Polish Music in Rzeszów)が開かれます。
ピアノ部門と室内楽部門に分かれており、ポーランドオペラの父と称されるスタニスワフ・モニューシュコ(Stanisław Moniuszko 1819-1872)の名を冠し、19世紀・20世紀にポーランドの作曲家によって書かれた、必ずしも世界に知られていない作品を知っていただく機会、そして、ポーランドを音楽のミーティング・ポイントとして捉えていただく一助となればという想いを込めて2019年から開かれています。プロの音楽家を参加対象とし、国籍・年齢に制限はありません。
主催はポーランド国立音楽舞踊研究所。ポーランド文化・国家遺産・スポーツ省が助成しています。
第2回となる今回、第1回に続き審査員として参加されるのが、下田幸二さんです。
各審査員の先生方にお話を伺うという企画の一環で、日本から唯一の審査員である下田さんにインタビューをいたしました。
※画像はすべて下田幸二さんにご提供いただきました。
1. 第2回を迎える本コンクールにおいて、先生が期待していることはどのようなことですか。
第1回に引き続いて第2回も《モニューシコ国際ポーランド音楽コンクール》の審査員に招いていただきましたことをたいへん名誉に思っております。
ポーランドの最も重要な作曲家はショパンです。ショパンは世界中で愛され、世界のピアニストの憧れの作品を多数残しました。また、ルトスワフスキやペンデレツキをはじめとする優れた現代作曲家の存在は世界的に有名です。一方で、そのほかにもたいへん素晴らしい多くの作曲家がポーランドにはおりますが、その存在はその価値と同じくらいに世界的に知られているわけではありません。シマノフスキやモニューシコは、ショパンに次ぐ重要な作曲家としての地位を得ていますが、そのほかにもあまたの注目すべき作曲家がポーランドにはおります。そういう作曲家の作品がこのコンクールを通じて広く演奏され、また録音や配信を通じて世界での認知度を高めることは、強く期待されるべきでしょう。
2. 本コンクールの審査員をお引き受けくださった理由をお聞かせください。
審査員長を務めていらっしゃるヤロスワフ・ジェヴィエツキ教授は、私のポーランド留学時代からの大切な友人です。また、彼の妻であった名ピアニストの故タチアナ・シェバノワ女史は、私のピアノの師でもあったのです。その彼から今回の国際コンクールの審査員依頼が来れば、それは二つ返事で引き受けるというものです。しかも、私の愛するポーランドの作曲家のみの作品でプログラムを構成するというのですから、こちらも勉強させていただく気持ちにもなったのです。
3. ポーランド音楽に関する先生のこれまでのご経験を教えてください。
私の日本の大学時代のピアノの師はポーランド人のリディア・コズベック教授でした。私はそこで多くのショパンの作品を教わりました。さらに、シマノフスキの作品も多く弾きました。卒業試験もシマノフスキだったのです。さらに、ワルシャワ・ショパン音楽大学では戦後初のショパン国際ピアノ・コンクール入賞者でいらした名ピアニストのバルバラ・ヘッセ=ブコフスカ教授にも師事しました。さらに、ビドゴシチのイェジー・スリコフスキ教授やタチアナ・シェバノワ教授にもお世話になりましたが、それらの過程で多くのポーランドの作品を学びました。ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ先生とも何度も多くのレコーディングの仕事などでご一緒させていただきました。お嬢さんのエリジビエタ・ステファンスカ先生とも交流し、オギンスキやクルピンスキといったショパン以前の作曲家の作品から現代までの様々な作品を知りました。ワルシャワの秋国際現代音楽祭ではルトスワフスキさんとお話しできましたし……、とにかく私の回りにはポーランドの音楽ばかりがありました。
4. 先生のお気に入りのポーランドの作曲家をお聞かせください。
もちろんまずショパンです。自身が好きなのはもちろん、私の妻はエキエル教授門下でショパン国際ピアノ・コンクール入賞者のピアニスト高橋多佳子ですし。また、私の生徒は何人もショパン国際ピアノ・コンクールに出場しています。
次には、やはりシマノフスキです。特に《仮面Maski Op.34》と《メトープMetopy Op.29》は傑作、マスターピースだと思います。《マズルカ》も。バツェヴィチにも魅力を感じます。さらに、パデレフスキのポーランド的な作品も好きです。スタトコフスキ(Statkowski)やストヨフスキ(Stojowski)の小品もチャーミングですね。
5. これまでに、ポーランド国内で開催された音楽コンクールで審査員をなさったことはありますか。
もちろんです。アントニンで開かれている青少年ショパン国際ピアノ・コンクール(Międzynarodowy Konkurs Pianistyczny „Chopin dla najmłodszych”)には毎回審査に行っています。ビドゴシチのルービンシュタイン記念国際ピアノ・コンクール(Międzynarodowy Konkurs A. Rubinstein Memoriam)も何回か審査をしました。また、ホシチノであった小さな連弾のコンクール„Gramy na 4 ręce”は今回のジェシュフのモニューシュコ国際ポーランド音楽コンクールのような大国際コンクールとは比較にならないくらい小さいですけれども、よく審査員をして楽しかったですね。ああいう小さな場までも大切にしているのが、ポーランド音楽文化の懐の深さだと思います。
下田幸二(しもだ こうじ) 音楽評論家・ピアニスト
現在、桐朋学園音楽部門、昭和音楽大学および附属ピアノアートアカデミー、相愛大学音楽学部各講師。日本演奏連盟会員。全日本ピアノ指導者協会正会員。 三木楽器開成館特別演奏家コース講師。朝日カルチャーセンター新宿にて「ショパンの生涯と楽曲」を開講中。
武蔵野音楽大学卒業。ポーランド国立ワルシャワ・ショパン音楽大学研究科修了。8年間にわたり国立エルスネル高等音楽学校ピアノ科講師を務める。ピアノを相馬信子、石黒祥義、L.コズベック、B.ヘッセ=ブコフスカの各氏に師事。その他、J.スリコフスキ、T.シェバノワの各氏にも薫陶を受ける。ピアノ指導者として高い定評があり、多くの優秀なピアニストを輩出。モニューシコ国際ポーランド音楽コンクール(ポーランド)、青少年ショパン国際コンクール(ポーランド)、ルービンシュタイン記念国際コンクール(ポーランド)、せんがわピアノオーディションをはじめとする内外のコンクール審査員やセミナー講師を歴任。「ピアノの森」(一色まこと原作・アニメ)の音楽監修を務める。 研究者としてはショパンやポーランド音楽の専門家として信頼が篤い。著書に、「ショパン その正しい演奏法」、(ヤマハミュージックメディア)、「ショパンの本」(音楽之友社)、「ショパン全曲解説」(ハンナ・日本図書館協会選定図書)などがあり、好評を博している。「レコード芸術」(音楽之友社)にて《下田幸二のピアノ名曲解体新書》を好評連載中。