8.06.2020 イベント, ニュース, 音楽

ポーランド・ジャズで街歩き

文・写真(グダンスクの写真を除く):オラシオ

ポーランドはヨーロッパの中でも特にジャズ・カルチャーが盛んな国として知られています。人口における若年層の割合が高いためミュージシャンもリスナーも若者が多いことと、日本における東京一極集中のような環境ではなく国内各地にそれぞれのジャズ拠点が点在するという特徴があります。国内各地にレベルの高い音楽大学やアカデミーがあることも、そうした環境づくりに一役買っています。

それでは、それぞれの街を拠点にするご当地ジャズ・ミュージシャンの音楽とともに、ポーランドの主要都市を巡る旅に出てみましょう。

<ワルシャワ>

歴史を感じさせる街並みとコンテンポラリーな建物が混在するのはこの国の主要都市に共通する特徴ですが、巨大なビルが立ち並ぶアーバンな情景が見られるのはこの首都ワルシャワだけです。

ワルシャワ拠点の先進的レーベルLado ABCは要チェック。パヴェウ・パヴリコフスキ監督の映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の音楽制作でも知られる天才Marcin Masecki マルチン・マセツキら若手が共同で設立したインディレーベルです。実験的なジャズだけでなく、電子音楽やエクスペリメンタルなポップ・ミュージックなど多彩なカタログが魅力。ちなみにこのレーベルのミュージシャンは来日したことがある人も多く、日本のファンにも比較的親しみやすいのではないでしょうか。

ミクスチャージャズユニットBaaba バーバ。ドラムのJan Emil Młynarski ヤン・エミル・ムウィナルスキの父親は、偉大な作詞家でシンガーソングライターのWojciech Młynarski ヴォイチェフ・ムウィナルスキです。

ワルシャワと言えば、パリに渡る前のショパンが活躍したことでも知られます。ショパンはワルシャワ郊外のジェラソヴァ・ヴォラ出身。ポーランドでは非常に数多くのショパンのジャズ・カヴァーが制作されており、この国ならではのジャズ・ジャンルと言ってもいいでしょう。

ショパン・ジャズの草分けの一人Andrzej Jagodziński アンジェイ・ヤゴジンスキのトリオによる子犬のワルツ

<クラクフ>

ポーランドの京都とも評される一大観光都市です。第二次世界大戦で徹底的に破壊されたワルシャワとは違い比較的被害が少なかったため、歴史的な建物やレトロな街並みがそのまま残っているところが多いのが魅力の一つ。Harris Piano BarU MuniakaKlub Alchemiaなどジャズや即興演奏のライヴが楽しめるヴェニューが多いのもクラクフのいいところです。

クラクフを拠点に活躍している若手ミュージシャンではPaweł Kaczmarczyk パヴェウ・カチュマルチクが一押し。ミクスチャーな音作りとDJやVJをフィーチャーしたステージでジャズ好きの若者の間でカリスマ的な人気です。この街では他に、有名な民謡音楽家の両親を持つヴァイオリニストStanisław Słowiński スタニスワフ・スウォヴィンスキや、クラシック一家出身の鬼才Pianohooligan ピアノフーリガン(Piotr Orzechowski ピョトル・オジェホフスキ)などジャンルを飛び越えた活動をする若手が目白押し。

パヴェウ・カチュマルチクが、ハリウッドで活躍したポーランド人作曲家Bronisław Kaper ブロニスワフ・カペルとHenryk Wars ヘンルィク・ヴァルスの楽曲を取り上げたプロジェクトのライヴ

<ヴロツワフ>

南西部の大都市ヴロツワフは橋の街です。中心部はオドラ川にぐるりと囲まれており、市内には200本以上とも言われる橋がかかっています。街のあちこちに隠れている小人のオブジェを見つけるのもヴロツワフ散歩の楽しみです。

EABS(Electric Acoustic Beat Sessions)はヒップホップやビート・ミュージック、スピリチュアルジャズなどの要素をベースにしたヴロツワフの若手ジャズ・コレクティヴ。またこの街には、ポーランドゆかりの作曲家をテーマにした作品を数多くリリースしこの国ならではのジャズ美を追求するベテラン・ピアニストKuba Stankiewicz クバ・スタンキェヴィチも住んでいます。

EABSがUKクラブジャズのキーパーソンTenderloniousをゲストに迎えた最新作『Slavic Spirits』より。過去作はよりヒップホップの要素が濃いです。ちなみにポーランドはヒップホップ・カルチャーも豊かです。

<トロイミャスト>

グダンスクにある噴水(写真:ポーランド共和国外務省)

北部のバルト海沿岸地域にはグダンスク、ソポト、グディニャという有名な3都市があり、まとめて「トロイミャスト」と呼ばれています。特にWojtek Mazolewski ヴォイテク・マゾレフスキやLeszek Możdżer レシェク・モジジェルら日本のファンにも知られるスターを輩出したグダンスクは、今でもフレッシュな感性の若手が数多く活躍する街です。

ヴァイオリニストTomasz Chyła トマシュ・ヒワのプログレッシヴなリーダーバンド。今のグダンスクを席巻するメンバーたちそれぞれの活動をフォローすれば、ポーランド・ジャズの旬が味わえます。
日本のファンに今いちばん愛されているポーランド人ミュージシャンはピアニストのSławek Jaskułke スワヴェク・ヤスクウケかもしれません。彼は海辺の小さな街プツクで生まれ、現在はソポトに拠点を置いています。バルト海をモチーフにしたこの『Sea』で大きな注目を集めました。

<ポズナン>

個人的にオススメの街がポーランド西部にあるポズナンです。地方都市ならではののんびりローカルムードと小ぢんまりしてかわいらしい街並みはリピート必至。またFripp Record Storeは小さいながら驚くべき品揃えを誇るレコード&CDショップで、音楽ファン必須のスポットです。

ポズナンでは今、ドラマーAdam Zagórski アダム・ザグルスキやDawid Kostka ダヴィト・コストカ&Damian Kostka ダミアン・コストカの兄弟(ギター&ベース)、ハーモニカのKacper Smoliński カツペル・スモリンスキなど才能あふれる若手が相次いで登場。同じメンバーが掛け持ちでいくつものプロジェクトを立ち上げ、「チーム・ポズナン」とでも呼ぶべき結束力と勢いがあります。

チーム・ポズナン人脈総動員のラージ・アンサンブル。オーケストラや弦楽四重奏団などクラシック・フォーマットとの共演がとても多いのもポーランド・ジャズの特徴の一つです。

ポズナンはポーランド・ジャズ史における伝説的大作曲家Krzysztof Komeda クシシュトフ・コメダがキャリアの初期に活躍したことでも知られています(写真はポズナンの街角にあったコメダのレリーフ)。彼はジャズと映画音楽双方のイノヴェイターでした。1969年に亡くなった彼の音楽は、ジャズをはじめあらゆるジャンルのミュージシャンにカヴァーされ、今も多大な影響を与えています。

ロマン・ポランスキ『水の中のナイフ』でも使用された楽曲Cherry。短いモチーフをつなぎ合わせたようなコメダの楽曲は、映像との相性が抜群。

<ステップ・アクロス・ザ・ボーダー>

最後に、現在トレンドになりつつある「デュアラー方式」をご紹介します。国内外の複数都市を拠点にするミュージシャンが増えています。その代表格は、グダンスクに生まれワルシャワとベルリンを行き来する若手女性ピアニストHania Rani ハニャ・ラニでしょう。またデンマークのコペンハーゲンでは「リトル・ポーランド」と呼びたくなるほどたくさんのポーランド人ミュージシャンが活躍しており、一大コミュニティを築いています。写真はコペン在住のポーランド人たちが企画した教会ライヴSwan Østerbroのリハの様子。ピアノを弾いているのは若き天才Kamil Piotrowicz カミル・ピョトロヴィチ。

Hania Raniの最新作『Home』から。今や世界の最重要レーベルの一つ、UKのGondwana Recordsからの2ndリリース。ベーシストとドラマーは10代でデビューしたグダンスクの早熟ピアノトリオImmortal Onionの2人。このトリオも要注目です

オラシオ
ライター、エッセイスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』監修。

コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』選曲・解説。

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