「ヨアンナ・ハヴロット:ウェアラブルアート — 見えざる糸」展は、ファッションを製品としてではなく、感情、記憶、そして社会的な可視性をめぐる表現の媒体として提示することを試みるポーランドのデザイナー、ヨアンナ・ハヴロットによるプロジェクトである。本展は2025年大阪・関西万博の公式文化プログラムの一環として開催され、ファッションとアートの境界を越えた、新たな視点を提示するものである。
ヨアンナ・ハヴロット(Joanna Hawrot)は、ポーランドの美術織物の伝統、とりわけ布を彫刻的構造へと昇華させたマグダレナ・アバカノヴィチ(Magdalena Abakanowicz; 1930-2017)の精神を継承し、布を語りの場として再定義する。衣服はもはや装飾ではなく、物語、抗議、そして自己表現の装置として機能する。
中心となるのは、「重ね合わせる」ことでできたナラティヴである。ハヴロットは、平安時代の宮廷衣装の伝統である十二単から着想を得ているが、その再現を目的としてはいない。彼女の関心はその形式ではなく、層を重ねるという思想そのものにある。十二単において各層が意味を持っていたように、ハヴロットの作品もまた、感情、記憶、社会的文脈を織り込んだ層で構成されている。
本コレクションは、12人の女性の体験を物語の層として取り込み、それぞれの衣服が個別の視点を宿す。衣服は「着るもの」ではなく、「語るもの」となり、身体と布、過去と現在、見えるものと見えないものの関係性を問い直す。
展示には、アンジェリカ・マルクル(Angelika Markul)による彫刻作品も含まれる。彼女の作品は心臓のような有機的形態をもち、感情、記憶、喪失という不可視の要素に物質的な重さを与える。それは「見えない糸」というテーマの感情的な中核を成す存在である。
さらに、写真家ズザ・クライェフスカ(Zuza Krajewska)によるポートレート写真も展示される。大阪で撮影されたこれらの写真には、トランスジェンダーの女性、レストランのオーナー、ホステス、年配の女性、テレビ局の若い女性社員など、さまざまな物語を持つた女性たちが登場する。彼女たちは、ハヴロットの衣装をまとい、日常の都市空間の中で写し出されることで、衣服とアイデンティティの交差点が新たな可視性と変容の瞬間を生み出す。
会場である大丸百貨店は、かつて伝統的な着物の生産と販売と関わった歴史を持つ場所である。その文脈を活かし、本展はショーウィンドウやギャラリースペースにとどまらず、百貨店内に展開し、商業空間と文化表現との接点を生み出す。ファッションは都市のリズムに溶け込み、日本とポーランドの織物文化が対話する場となる。
キュレーターチーム:パヴェウ・パフチャレク(Paweł Pachciarek)、ヨアンナ・ハヴロット
アドバイザー:マルティン・ルジツ(Marcin Różyc、ウッチ繊維博物館{Centralne Muzeum Włókiennictwa w Łodzi})
展示構成:アニア・ヴィトコ(Ania Witko)
会場:大阪・大丸心斎橋百貨店(7フロアにわたる展示/ギャラリーおよびショーウィンドウを含む)
主催: アダム・ミツキェヴィチ・インスティテュート(Instytut Adama Mickiewicza)
助成: ポーランド共和国文化・国家遺産省「2025年 大阪・関西万博(EXPO2025)開催期間の日本におけるポーランド文化促進プロジェクト」
協力:大丸心斎橋店
パートナー:ウッチ繊維博物館、ポーランド投資・貿易庁(PAIH)








